『ディープライジング』シリーズ

5、6年前から超低予算映画界隈を中心に盛り上がりを見せたサメ映画ブームが、ついにジェイソン・ステイサムが巨大サメと戦う超大作『MEG』にまで行き着いた。それくらいサメには人を惹き付けるパワーがあるのか、もしくは超低予算映画から倣わなければならないくらいハリウッド映画界のネタ切れが深刻なのか、理由はたぶん後者だと思う。

ちなみに、この『MEG』には思わず震え上がってしまった。この手の映画のポスター等でお馴染みの、サメが大口を開けてこちらに向かってくるようなビジュアルが自分には本当に怖くて仕方がない。子供の時、ビデオ屋のモンスター映画の棚にこういったビジュアルのジャケットがところ狭しと置いてあったのを見てビビったのが、いまだにトラウマになっている。それととにかく水面も怖い。この下にはなにかいるのではないか、入ったらたちまち引きずり込まれるのはないかと海や川を見ていると常に思ってしまう。だから本当に中身が見えない水に入るのは苦手だ。

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まさに、この『MEG』の予告とポスターはそうした恐怖に訴えかけるものになっている。正直、映画館の大画面で観たら、自分はどうなってしまうのだろうか、そういう期待ができるという意味では今年最も楽しみな映画かもしれない。

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水面下の恐怖といえば古典のこれも

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サメではないけど子供の時に一番ビビったジャケットは『ザ・グリード』

『MEG』に備えてこの機会にサメ映画をいろいろ観てみようと思った。それでまずはNetflixにあった『ディープライジング』を観てみました。

開始早々やられたのは『shark attack2』という原題が画面にぎゅーんと迫ってきたこと。ああ『シャークアタック』子供の時にテレ東で観た記憶がある.....キャスパー・ヴァン・ディーンが出ていた。そういえば、キャスパー・ヴァン・ディーンは『シャークトパス』シリーズにも出演している。もしかしたら、サメ映画史においては重要人物なのかもしれない......。

しかし、続編とはいえ内容にまったく関係はなかったし、結論から言えば本当に志の低い『ジョーズ』の丸パクリ映画だった。海を観光資源とする町に人食いサメがやってくる、サメの危険性を訴える専門家の主人公、聞く耳をもたず利益を優先する企業と町、しかし案の定サメが海水浴客を襲い、それみたことかと主人公たちが大海原へと案の定サメ退治、基本はこれ。そこにサメに姉を殺されたヒロインの物語が絡んだりと一応独自のことをやっているものの、あまりにも薄っぺらい。名作のストーリーラインをパクっている割には、個々の描写や展開は回りくどく陳腐でつまらないという体たらく。肝心のサメ描写は実際に作ったかどっかから持ってきたかと思われるサメのハリボテと、同じくどっかからコピペしたと思われるサメのCGが数秒出てくるだけで、それ以外は基本的に海で自由に泳ぎ回ってるサメのストックフッテージと、ぎゃーっと叫んでる人間のカットを繋いで誤魔化している。ただ自由に泳いでいる野生のサメと、そこにはいないはずのサメに向かって懸命に芝居している俳優たちの心情、そしてそれを繋げばそれっぽく見えると考えた作り手達、その三者のことを思うとなんだかやるせなくなってしまう。

まったく見所はない『ディープライジング』だったが、なんと続編(正確には三作目)の『ディープライジング コンクエスト』があった。当然、悪い予感を抱えたまま観はじめたところ、これが前作に輪をかけてひどく、作りが適当過ぎるがあまり、ものすごく面白かった。物語は前作同様『ジョーズ』からパクったしょうもない代物だけど、なによりもサメ描写がすごい。襲いかかるのが普通のサメではなく、かつて絶滅したはずの超巨大サメ、メガロドン(『MEG 』と同じネタだ)だから、前作のようなちゃちなハリボテとストックフッテージで誤魔化すことが出来ない。そこで作り手たちが知恵を振り絞った結果がこれ!

まるで自主映画のようにトンチが効いた特撮。こんなの観たことあるだろうか。他の映画では到底お目にかかれない唯一無二のものが観れるのなら、それがたとえ最低なものだとしても、その映画には絶対の価値が生まれる。実際本作はこのあまりの酷さから本国ではカルトな人気を獲得しているらしい。観賞後、自分も思わず様々なシーンを巻き戻して何度も観てしまった。

実はサメ以外もスゴい。突出しているのは、いよいよサメ退治に向かうという決戦前夜のシーン。主人公とヒロイン二人きりになると主人公がこんなセリフを言う「なんだか興奮して眠れないよ。君を食べたい気分だ」すると次のカットでは、もうセックスシーンが始まっている。二人が恋愛関係に発展しそうな気配は一応匂わしていた程度に過ぎなかったから唐突に始まることにびっくりしてしまう。しかもこのセックスシーンは、いまだに作り手たちの考えるセックス描写が『ナインハーフ』のレベルで止まっているとしか思えないような、ダサいものだ。(これは前作のセックスシーンも全くそうだった。そちらもお決まりのように決戦前夜にしていた)そして、このシーンはヒロインが絶頂に達したその顔の輪郭に、海原に浮かぶ朝陽がピッタリと重なり、そのまま朝のシーンにフェードインするというギャグとしか思えない編集で幕を閉じる。

このセックスシーンもアメリカでは人気らしく、件の主人公のセリフは「映画史上最も素晴らしいセリフ」として抜き出されYouTubeに複数アップされている(原語だと「eating your pussy」ともっと直接的に言っているから人気が出るのも納得)

他にもクライマックスに登場する潜水艦の外観と中身が全く一致ていないとか、カットが変わると登場人物の額からそれまでは全くなかったはずの謎の出血が起こっているとか、サメ以外でもかなり面白く、常にこちらの予想を軽く越えてくる。両方Netflixにあるから是非とも観てほしい。きっとあなたの度肝を抜くだろう......。