『マンダロリアン』

久しぶりに面白いスターウォーズが観れて幸せでごんした。シーズン1の感想。

 

チャプター1

超西部劇。マンドーが薄汚れたストームトルーパーたちとメキシカンスタンドオフかますところで痺れた。銃を撃ちまくるIGがめちゃカッコいい。物語的に最もグッときたのは、マンドーがブラーグを手なずけられず諦めかけたところで、じじいアグノーツから「お前はマンダロリアンだろう!(You're a mandalorian !)」(ニック·ノルティの声で)と言われて再挑戦するところ。ここで音楽が高まっていきマンドーがアグノーツを手なずけら乗ることに成功した次のカットでは、二人がアグノーツに乗って颯爽と荒野を駆けている空撮の画になって、あの素晴らしいメインテーマがドカンと鳴り出す!たとえ凡庸な定型だとしても、着実にやれば物語に絶大なカタルシスをもたらすことを証明した。基本的なことをしっかりやっていて偉い。アグノーツから叱咤されたマンドーの「ハッと」した表情をマスク越しから捉えられたのが、シリーズ全体の勝因に繋がってるはずだ!

 

チャプター2

オープニングは超時代劇。ジャワ族がストリートチルドレンのように見えた。一角獣も獰猛でカッコいい。この回を担当した監督のリック·ファミューラは、この後の担当回でも同様にサグい悪さのような、いままでのスターウォーズにはなかったものを持ち込んで貢献している。(『DOPE!』っていうタイトルの映画を撮ってるくらいの人だし)

 

チャプター3

で自分の心は一気に鷲掴みにされた。物語がまた超西部劇。賞金稼ぎの主人公が組織の掟を破ったたために、自らが賞金首となって命を狙われる。クライマックスは一本道を舞台に、孤立無援の主人公とその行く手を阻む賞金稼ぎ軍団との大銃撃戦!こんなスターウォーズが観てみたかった!と思った人が多いと思う。俺も!そして激渋の存在感のカール·ウェザースが満を持して活躍!ブラスターを両手でしっかり構えて狙いを定めた一撃!きちんと狙いを定め発射する銃撃描写もスターウォーズで観てみたかった!

そして、本当に感動するのはその後やってくるマンダロリアンズの援軍…。序盤では主人公と衝突していたにも関わらず、奇跡のように空から降り立ってくる彼らの姿に(ジェットパックの炎がすごく美しく撮られているのもあって)「なんて…誇り高い集団なんだ」と感動させられた。「お前たち、アジトを変えないといけないぞ」「我らの道!」「…我らの道…!(this is the way…!)」台詞の応酬もいちいち熱すぎる。ここで鳴る音楽がまた素晴らしい。序盤、主人公がマンダロリアンズと衝突したあと、新しい武器を作ってもらいながら、子供時代に家族を虐殺され、マンダロリアンに助けられた記憶をフラッシュバックさせるシーンがある(第1話から振られていた「もしかして主人公は生まれながらのマンダロリアンではないのか…?」というのがハッキリする)このフラッシュバックで流れていた悲劇的なメロディが、クライマックスでは超エモーショナルな勇壮的アレンジでもって再び流れ出す。泣くしかない。音楽のルドヴィグ·ゴランソンは立派な演出家だ。

説得力ある描写で架空の存在にたしかな実在感をもたせるのはスターウォーズの本質。それが物語の展開上の感動にも一致した名シーン。

この回を演出したのは第8話でも見事な仕事をするデボラ·チョウ。ジョン·ファブローのシンプルな脚本を贅肉のない演出(特にロングショットの入れ方が的確なアクション描写)でビシッと締めている。デボラ·チョウがいなかったら、自分はここまでマンダロリアンにグッとこなかったかも。

 

チャプター4。

ブライス・ダラス・ハワード演出回。超『七人の侍』。前話と真逆で演出もアクションも全くパっとせず特に印象に残らないから、『七人の侍』オマージュ以上でも以下でもないものに終わった。シーズン2第3話のハワード演出回にも同じような印象を持つ。各話何回も見直してるけど、ハワードの回は見直したいと思わない。

ちなみにアニメシリーズの『クローンウォーズ』シーズン2、17話にも冒頭で黒澤明への謝辞を出すくらいの超『七人の侍』回がある。こちらは素晴らしい作品になっている。特に「真の強さとは、なにで証明できるのか」という『七侍』の大事なテーマを独自のアイデアと素晴らしいキャラクター描写でしっかり受け継いでいる。

 

チャプター5

デイヴ·フィローニ回。軽い回だけど、フィローニの丁寧さがよくでていて楽しめる。フィローニ演出回は画面のレイアウトと美術や小道具の印象が強く残る。アニメーター出身ということが関係してるとこじつけられなくもなーい。

 

チャプター6

リック·ファミューラ回。ギャングチームがいい。ケレン味たっぷりアクションやホラー映画的な演出もバラエティに富んでいる。特にビル·バーのビジュアルは「え、こいつがスターウォーズのキャラクターなの」と一瞬思ったけど、動いたらちゃんと魅力的だった。ビル·バーまさかシーズン2で重要人物になるとはー。

 

チャプター7

デボラ·チョウの素晴らしい仕事が堪能できる名作回!またまた超西部劇でありながら、夜に焚き火を囲んでいたら化け物鳥に奇襲されるユニークさなどが面白く描かれる。しかししかし、なんといっても一番の感動はタイファイターが空の彼方から飛来するところだろう!空に見える小さい点だった物体が、地面に急降下し、ストームトルーパー軍団が整列する画面のちょうど中央にドーンと着地。その一連をじっくりとしたワンカットで捉えきっているからこそのカタルシスと、改めて認識させられるタイファイターの形の美しさ!ここで流れる音楽がタイファイターが地面に近づくにつれ、限りなく帝国マーチを呼び覚ます旋律に変わっていくのも完璧!上空から地面に降り立ってくるものでカタルシスを作るクライマックスの構成は第3話と同じ。どちらもファブロー脚本だから似てるのは当然だけど、見事に演出してみせたデボラ·チョウは『マンダロリアン』超貢献者。

 

チャプター8

はところが全く面白くない!『マイティソー』3作目といいタイカ·ワイティティはアクションがヘタすぎるというか、そもそも真剣にやる気がないのかも。素晴らしい前話の続きにも関わらず、緊迫感やテンションだけがごっそり抜け落ちてるのが際立って「なにやってんだ!」って感じ。しかも前話であれだけ緊迫最高潮の大集結をした帝国残党軍団との満を持した銃撃戦は、始まってみたら位置関係や距離感も不明な雑乱戦でガッカリ。前話で超カッコいい登場をしたモフ·ギデオンが戦闘の真っ只急にテクテク歩いてきてマンドーひとりに狙いを定めて攻撃する段取りも間抜けにしか見えなかった。そもそも、IGがスピーダーに乗って皆を助けにくる展開も、本来はすごく燃えるはずなのになにかグッと来ない。スピーダーから降りて、いわゆる「スーパーヒーロー着地」ぽくキメてIGが登場するのも軽薄で面白くないというか。第1話で見せてくれた、IGの形の構造が際立つ独自の動きとそれゆえのカッコよさはここにはない。じゃあ、コメディが上手いかというと…。ワイティティのギャグセンスって要はキャラクターに風変わりな言動をさせて、そこから発生した人物同士のやり取りをグダグダさメインに長く撮ってるだけという風に思えて、自分にはただあざとく感じてしまう。今回の冒頭のストームトルーパー2人のやり取りなんかは、このシリーズのテンションには合ってなくないか?ただし、トルーパーの片方を大好きなジェイソン·サダイキスが演じていて、彼らしいめっちゃぞんざいな言い回しとかは笑いましたけど。

なんにせよ、デボラ·チョウの演出が自分にはグッとくるだけに、その後の回でパっとしてないと落胆が大きくなるという第4話と同じ流れを繰り返しましたー。

 

シリーズ毎の出来不出来はあれど、今時珍しいほど大袈裟にしたり大規模にしたりせず、最小単位の物語でじっくり成立させたのは『スターウォーズ』の確立された世界観があってこそでしょう。これと同じ試みが他のシリーズでいま出来るかは考えづらい。