ショッピングモールは期待を誘う

Netflixの作品ラインナップをあてもなく眺めていた時に、アントニオ・バンデラス主演の『セキュリティ』という作品が目についた。あらすじを読むと「元海軍の男が、ショッピングモールの夜間警備員として働くことに。武装した男たちに狙われる少女が逃げ込んだ時、警備員は深夜のモールで戦うために立ち上がる!」面白そうだと思った。特に「元海軍の男が、ショッピングモールの夜間警備員として働く」というこの部分には、いやが応にも反応せざるを得ない。

ショッピングモールはワクワクさせる場所だ。色々なものが売っているからワクワクする。近年のショッピングモール代表作と言えばなんだろう。『エージェント・ウルトラ』のクライマックスはホームセンターを舞台にそこにある様々な生活用品を使って武装集団と戦っていた。実際あの作品で一番面白かったのはそこだった記憶がある。

で、『セキュリティ』は多分『イコライザー』風に『ダイハード』をやったら面白いんじゃないかという発想で作られた映画だと思う。うまく行けば絶対に面白くなるに決まっている。

しかし、結論は面白くなかった。

(2018年の4月、ここで止まる)

 

溜め込んだ映画感想メモ軍団の最下層、つまり最も古いやつがこれ。3年前になるとは恐ろしい。「結論は面白くなかった」という以上に書くことがなかったんだろう。『セキュリティ』という映画に関してはもう覚えてない。敵のテロリストのボスがベン·キングズレーで「よくやるよ」と思った記憶は少しある。

とはいえ、この文章のメインは『セキュリティ』ではなくタイトルから分かるようにショッピングモール映画についてだったんだろう。いまの自分にはショッピングモール映画について書くモチベーションはそこまでないがやるだけやるぞ。

ショッピングモール映画の最高峰は『ゾンビ』なのか?あの映画にはショッピングモールの全てが描かれていたのかもしれない。なんてたってモールで生活をするわけだ。ああいう場所で生活をしている描写は観ているだけで楽しい。そういえばモールじゃないけど、空港で生活をする『ターミナル』は、舞台の空港がほとんどモールみたいだったから生活の描写は楽しかった。あとモールが舞台の映画ではずばり『モールコップ』があった。これも『ダイハード』要素が強いアクションコメディだけど、すごくつまらなかった記憶が。というか自分はアダム・サンドラーが本当に嫌いだから、彼のチームのケヴィン・ジェームズも嫌いだ。ほかにモールでアクションしていたのは、チャック・ノリスの『地獄のコマンド』中盤か。車でモールの中を暴走していた。同じことを『ブルースブラザーズ』もギャグとしてやっていたけど、『地獄のコマンド』はヒーローの活躍としてやっているから怖い。ていうか『地獄のコマンド』は観ているとあらゆる感覚が麻痺していく映画だ。ヤバイ薬みたいな映画かもしれない。その感覚が麻痺していく感じは主に80年代のアクション映画に特有のもので、そのことを自分は「アクションインフェルノ」と呼んでいる。スタローンの映画では『デッドフォール』(原題『Cash&Tango』)と『ランボー3』が、シュワルツェネッガーでは『コマンドー』がキマッテいる。

そう、『コマンドー』はモールで大アクションしていた。『ポリスアカデミー』みたいな大量の警備員たちをウワー!とはじけ飛ばすところは本当に最高だ。ポリスといえば『ポリスストーリー』もクライマックスにすごいモールアクションがある。しかも舞台になるモールはアメリカ的なバカでかいものではなく、日本の地方都市に今でもぽつんとあるような狭く閉鎖的なタイプの、限りなくデパートに近いリアルな場所で展開されるから、ジャッキーがぼろぼろになっていくのもハードで怖い。こう書いちゃ悪いけど安っぽいモールやデパートには特有の息苦しさがあって、少し犯罪の気配を感じる。犯罪映画でモールを使っていたのは『ジャッキーブラウン』。しかもモールの中で最も犯罪のにおいがするエリア、ファーストフード店に囲まれたフードコート(かなりヤバイ場所だ)で現金の受け渡しをやっていた。タランティーノはいいセンスしてる。しかもそこの駐車場ではデ・ニーロがブリジット・フォンダを殺していた。最悪だ。

犯罪では『ペントハウス』でもモールがいい使われ方をする。ベン・スティラー率いる犯罪の素人軍団が犯罪修行のためプロ泥棒のエディ・マーフィにモール内のフードコートに呼び出されると「このモール内から高価なものを一人ひとつずつ万引きしてこい。絶対に金は使うな。財布はここに置いていけ」と指令を出される。なんとか万引きをしてみんながエディ・マーフィのもとに戻ると「ひとつ忠告だ。絶対に泥棒に財布を預けるな」と言われて、素人軍団の財布から金がまるっととられているシーンが最高だった。『万引き家族』でもこういうのが観たかった。日本映画では松竹映画『白昼堂々』が万引き映画の傑作。実話をもとにデパート内の集団万引きを描いていた。あれの渥美清は良かったなあ…。

「shopping mall movie」と検索したら、『キルボット』というモールの中に配備されたセキュリティロボットが人を殺していく映画の原題が『Chopping Mall』であることが分かった。これを知ったことで、人生になにか影響をおよぼすのか。飛行機に乗っていて「緊急事態です、どなたか『キルボット』の原題が分かる方いませんか?」と乗務員が乗客に助けを求める。そんな『フライング·ハイ』すらやらなそうなことが起きたら「(挙手して)はいはい!私わかります原題は『Chopping Mall』でゲス」とは言わないと思う。

もうひとつ調べてみて分かったことは、ショッピングモールは特にティーンコメディ映画の中で印象的に登場することが多い。『ミーンガールズ』や『スーパーバッド』など。つまり極めて日常的な場所ということだ。その点、日常からかけ離れたキャラクターが主役の映画たとえば『007』シリーズのジェームズ・ボンドは、ミッションでない限りまずモールに行かないだろう。いや、最近のボンドは普通の人間ぽくなっているからモールに行く日もそう遠くないのか。敵のボスにボンドが接近するときは優雅なスポーツなどを一緒にやるところを、モール散策にしたらどうだろう。敵のボスはどういうわけかモールに入り浸っていて(世界征服のために倹約している)身分を隠したボンドも一緒にモールで遊ばなければいけなくなる。そして、最も恐ろしいことに一緒に激安紳士服売り場でスーツを仕立ててもらわざるを得なくなることに。ボンドにとっては拷問だろう。だが、超嫌そうなボンドに反して、いざ仕立ててみると仕立てた店員の目が「ワーオ」とびっくり見開くほどびしっとキマってしまう。しかし、そんな安いスーツがびしっと決まることを敵のボスが怪しんだことでボンドは窮地に…。ガイ・ハミルトンならそれくらい平気でやってのけただろうか。おしまい!