『オール・ユー・ニード・イズ・キル』

どうにもテンションが低い映画であった。あの名作『恋はデジャブ』のSFアクション版なのではと期待を膨らませたんだけれど、やっぱダグ・リーマンは演出が淡白で教科書的なまでに優等生過ぎるのかもしれない。だから、こう燃えたり悲しくなったりこちらの心を揺れ動かすようなところがない。まあそれは脚本もシンプル過ぎるって問題でもあるけど、本当にするすると進む。喉ごしが良すぎて食った気がしないざるうどんのように。まるで、ざるうどんだこれは。ざるうどん。

だがしかし、このざるうどんを救うのはネギや七味といった薬味である。この薬味がマジでうまい!これが入っていなかったらどうなっていたのか。このざるうどん、もとい『オール・ユー・ニード・イズ・キル』を救ったのは何を隠そうって隠せないほどのきんきら輝くスターの中のスター、そうトム・クルーズである。この映画ではトム・クルーズが見事に薬味の役割を果たしている。

特に2000年代に入ってからのトムは「みんな、俺がおかしかったりあたふたしたりしてるのを見るのが楽しいんだろ?」ってことをよーく分かっておられる。だから、最近のトムは映画内でやたらとドジを踏む。やたらと浮くのだ。
 それが今回は最大限に発揮。特に前半の戦闘能力皆無なのに戦場に送られるトム&死ぬたびループで困り果てるトムは、これはトム・クルーズが演じていたから素晴らしく面白い。さっきも書いた通り演出も脚本も全体がするすると進むので、この前半にそれこそ『恋はデジャブ』のような地獄のような苦しみや葛藤が薄い。それにそもそも主人公がどういう生い立ちでどういう人間なのかという説明や描写がないので、後々変化していってもあまり感動がない。の、だがそこは流石演じているのが何を隠そうトム・クルーズなので、いいのだ。脚本と演出の不備をとにかく補う。いるだけで補う。これはやはりトム・クルーズの正体はじつは薬味なのではないかと疑わざるを得ない。


それを代表するのがラスト。非常に飲み込みづらいご都合設定でちょっと「甘っ!!」と言いたくなる、というか言った。実際言った。けれど、瞳にうっすら涙を浮かべたトムがニッコリスマイルで笑ってエンドクレジットどーん!のあのラストショットは、もう親指が二本であろう。あのラストショットだけでぶっちゃけこちらもうるっときた。嫌なことを全て忘れさせてくれる笑顔。御利益がありそうな笑顔だ。
 
何度も何度も書くが、脚本も演出も非常に納得はいかないんだが、それを全てカバーしてしまったトム・クルーズ力。やはりトム・クルーズは宇宙一の薬味であり映画界最強のスターであることを改めて確認させられた一作。君こそスターだ!!